第1回で、ひとつ宿題を残したままにしていました。
「ヨウ素は、足りないだけでなく摂りすぎも甲状腺の負担になる」
海に囲まれ、昆布やわかめを当たり前に食べてきた私たちにとって、これは他人事ではありません。しかも厄介なことに、「体にいいと思ってやっていること」が、そのまま裏目に出やすい領域なのです。
最終回は、この宿題を回収するところから始めます。そして食事、ストレス、周りへの伝え方——長く付き合っていくための知恵を、シリーズの締めくくりとしてお届けします 🌿
このシリーズは、甲状腺という臓器を「知る」ためのものです。食事や生活の調整は、治療の代わりにはなりません。治療中の方は、必ず主治医の方針を優先してくださいね。
日本は、世界でも特別な国
甲状腺ホルモンの材料はヨウ素(ヨード)です。
世界を見渡すと、ヨウ素は不足しやすい栄養素です。内陸の国では土壌にヨウ素が乏しく、甲状腺が腫れる病気が問題になってきました。だから多くの国では、食塩にヨウ素を添加しています。
ところが日本は違います。
海藻を日常的に食べる文化があるため、日本人のヨウ素摂取量は世界でもトップクラス。だから日本の塩には、ヨウ素が添加されていません。その必要がないからです。
つまり——日本で暮らす私たちが気をつけるべきは、不足よりも「摂りすぎ」のほうなのです。
昆布だけが、けた違い
ここがいちばん大切なところです。
「海藻」とひとくくりにされがちですが、含まれるヨウ素の量はまったく違います。
| 食品 | 100gあたりのヨウ素量(目安) |
|---|---|
| 昆布(素干し) | 約200,000µg |
| ひじき(乾) | 約45,000µg |
| わかめ(乾) | 約8,000µg |
| 焼きのり | 約2,100µg |
昆布だけが、けた違いに多い。 ひじきの4倍以上、のりのおよそ100倍です。
参考までに、成人が1日に必要なヨウ素は130µg、摂りすぎの目安とされるのが3,000µgです。
実際の食事に置きかえてみると
数字だけでは実感がわかないので、日常の量で見てみましょう。
| 食べるもの | ヨウ素量(目安) | 見方 |
|---|---|---|
| 焼きのり1枚(約3g) | 約60µg | まったく問題なし |
| わかめの味噌汁1杯(乾1g) | 約80µg | まったく問題なし |
| ひじきの煮物 小鉢1杯(乾5g) | 約2,200µg | 毎日でなければ大丈夫 |
| 昆布1g(5cm角ほど) | 約2,000µg | たった1切れでこの量 |
見えてきましたでしょうか。
のりやわかめは、普通に食べていて何の問題もありません。 むしろ気にしすぎるほうがもったいないくらいです。
問題になるのは、昆布。そして毎日続けることです。
気をつけたい習慣
- 昆布茶を毎日飲む
- とろろ昆布・おぼろ昆布を常用する
- 昆布だしを毎日たっぷり使う(だしにもヨウ素は溶け出します)
- 昆布の佃煮を常備菜にしている
- 海藻サプリ・ケルプのサプリを飲んでいる
どれも「体にいいこと」として続けられがちなものばかりです。だからこそ、盲点になります。
摂りすぎると、何が起きるのか
意外に思われるかもしれませんが、ヨウ素を摂りすぎると、甲状腺の働きは「低下」します。
材料が多いのだからホルモンがたくさん作れそうなものですが、逆なのです。
大量のヨウ素が入ってくると、甲状腺はホルモンを作るのを一時的に止めてしまうという安全装置を働かせます。健康な人ならすぐに解除されて元に戻るのですが——
橋本病の方は、この安全装置が解除されにくいことが知られています。
つまり、すでに甲状腺に負担がある方ほど、ヨウ素の摂りすぎの影響を受けやすい。ここは知っておいていただきたいところです。
実際に、昆布の摂りすぎが原因で甲状腺の機能が落ちていた方が、昆布をやめただけで数値が改善したという例も報告されています。
でも、「海藻を食べるな」ではありません
ここを誤解しないでいただきたいのです。
極端は、どちらもよくありません。
海藻を完全に断つ必要はまったくありませんし、そうすべきでもありません。海藻には食物繊維もミネラルもあり、日本の食卓の大切な一部です。
目指したいのは、ちょうどいい距離です。
- のり・わかめは、普通に食べて大丈夫
- 昆布は「毎日の習慣」にしない(時々の食事として楽しむのは問題ありません)
- ひじきは週に数回程度に
- 海藻サプリは、必要性をよく考える
「食べてはいけないもの」を作るのではなく、「毎日続けているものはないか」を振り返る。そういう見方のほうが、ずっと現実的です 🌿
見落としがちなヨウ素
食べもの以外にも、ヨウ素の入り口があります。
うがい薬 茶色いうがい薬(ポビドンヨード)には、ヨウ素が含まれています。のどが痛いときに数日使うぶんには問題ありませんが、毎日の習慣にしている場合は、甲状腺の状態によっては見直しの余地があります。
造影剤を使う検査 CT検査などで使われる造影剤には、ヨウ素が含まれているものがあります。甲状腺の病気があることは、検査の前に必ず伝えてください。
「代謝を上げる」系のサプリ ダイエット系・代謝促進系のサプリに、ヨウ素や海藻エキスが含まれていることがあります。成分表示を一度確認してみてください。
そして、ビオチン 第4回でお伝えしたとおり、ビオチンのサプリは検査結果そのものを狂わせます。採血の前は休むこと、そして必ず申告すること。ここは繰り返しお伝えしておきます。
甲状腺を支える、他の栄養
ヨウ素の話ばかりしてきましたが、甲状腺は他の栄養素にも支えられています。
| 栄養素 | 甲状腺での役割 | 多く含む食品 |
|---|---|---|
| セレン | T4をT3に変換するのに必要 | 魚介、卵、肉 |
| 鉄 | ホルモンを作る酵素に必要 | 赤身肉、レバー、あさり |
| 亜鉛 | ホルモンの合成と作用に関わる | 牡蠣、肉、ナッツ |
| たんぱく質 | ホルモンの土台になる | 肉、魚、卵、大豆製品 |
第1回でお話ししたとおり、T4は「予備の形」で、T3に変換されてはじめて働きます。その変換を担うのがセレンです。
ただしここでも、サプリでの大量摂取には注意が必要です。特にブラジルナッツはセレンが非常に多く、1日1〜2粒で十分とされています。良かれと思って毎日たくさん、が裏目に出るのは、ヨウ素とまったく同じ構図です。
基本は、普通の食事から。これに尽きます。
鉄については、もうひとつ
第3回で、橋本病の方は鉄が不足しやすいとお伝えしました。
鉄が足りないと、甲状腺ホルモンを作る酵素も十分に働けません。貧血の改善が、甲状腺にとってもプラスになる——そういう関係があります。
だるさが続くときは、鉄の状態もあわせて診てもらう価値があります。
キャベツも大豆も、食べて大丈夫です
ここは、不安になっている方が多いところなので、はっきりお伝えします。
アブラナ科の野菜(キャベツ、ブロッコリー、大根、カブなど)や大豆製品には、甲状腺の働きを妨げる成分が含まれている、という話を聞いたことがあるかもしれません。
たしかにそうした成分はあります。けれど——
普通に食べる量なら、まず問題になりません。
- 加熱すると、その働きは大きく弱まります
- 問題になるのは、生で極端な量を毎日食べ続けるような場合です
- ヨウ素が足りている日本の食生活では、さらに影響が出にくいとされています
ブロッコリーもキャベツも納豆も豆腐も、どうぞ普通に召し上がってください。栄養面での利点のほうがずっと大きいです。
ひとつだけ実務的な注意は、大豆製品は甲状腺ホルモン薬の吸収を妨げること。薬を飲む時間と離す、という工夫で解決します(第4回でお伝えしたとおりです)。
ストレス・睡眠・季節
ストレスとの関係
橋本病もバセドウ病も自己免疫の病気です。そして免疫は、ストレスや睡眠の影響を受けます。
強いストレスや過労、大きな感染症のあとに発症したり、症状が動いたりすることは、実際に知られています。
「ストレスをなくしましょう」と言われても難しいことは、よくわかっています。ただ——自分の状態が変わりやすい時期を知っておくことには意味があります。
環境が大きく変わったとき、無理が続いたとき、産後。そういう時期は、いつもより体の声に耳を傾ける。それだけでも違います。
冬に不調が出やすいことも
寒い季節には、甲状腺の数値が動きやすいことが知られています。TSHは冬に高めに出る傾向があるとも言われます。
「冬になると調子が落ちる」という感覚には、根拠があるかもしれません。季節による波を知っておくと、必要以上に落ち込まずにすみます。
冷えとりノートでお伝えした温活の知恵も、この季節にはきっと役に立ちます 🌸
喫煙のこと
第2回でお伝えしたとおり、バセドウ病の目の症状には、喫煙がはっきりと悪影響を及ぼします。
これは数ある生活習慣の中でも、影響が特にはっきりしているものです。
周りに伝えるということ
甲状腺の病気は、見た目ではわかりません。
腫れが目立たなければ、外から見て「病気の人」には見えない。だからこそ、こんなことが起こります。
「疲れた」と言えば、怠けていると思われる。 休みが必要だと言えば、大げさだと受け取られる。 「元気そうに見えるけど」と言われる。
わかってもらえないことが、症状そのものよりつらい——そういう時期があるかもしれません。
伝えるときは、病名よりも「何ができて、何がつらいか」のほうが伝わりやすいように思います。
「甲状腺の病気で」よりも、「ホルモンの関係で疲れやすい時期があって、休むと戻るんです」。そんなふうに、具体的な形にすると受け取ってもらいやすくなります。
そして——全員にわかってもらう必要はありません。近くにいる何人かに伝わっていれば、それで十分です。
長く付き合っていくということ
最後に、少しだけ個人的なことを書かせてください。
診断がついたとき、正直なところ、少しほっとしました。「気のせいではなかった」とわかったからです。
長いあいだ、自分の不調に名前がありませんでした。だるさも冷えも、年齢や性格や気の持ちようのせいにされて——いちばんそう思っていたのは、たぶん自分自身でした。
だから、体の中にちゃんと理由があったと知ったときは、責めていた自分に少し謝りたくなったのを覚えています。
この病気とは、たぶん一生付き合っていきます。
でもそれは、ずっと具合が悪いという意味ではありません。定期的に確認して、必要なぶんを整えて、季節ごとの波とうまく付き合っていく。「治す」というより「一緒に暮らす」——そんな感覚に近いです。
今でも、疲れやすい時期はあります。そういうときは、無理に元気なふりをしないことにしました。休んで、温めて、また動き出す。それを繰り返しているうちに、自分の体の癖がだんだんわかってきます。
甲状腺は、のどにある小さな臓器です。ずっと存在すら知らずに生きていく人のほうが、きっと多い。
でも私にとっては、自分の体を丁寧に見るきっかけをくれた場所になりました。
もし今、原因のわからない不調を抱えている方がいたら。「気のせいかも」と思いながら過ごしている方がいたら。
その感覚を、どうか大切にしてください。 そして、確かめる勇気を持ってみてください。何もなければ安心が手に入りますし、何かあれば、そこから道が開けます 🌿
まとめ
- 日本は世界でもヨウ素摂取量が多い国。気をつけるべきは不足より摂りすぎ
- 昆布だけがけた違いに多い。のり・わかめは普通に食べて問題なし
- 気をつけたいのは昆布茶・とろろ昆布・昆布だし・海藻サプリの「毎日の習慣」
- ヨウ素の摂りすぎは、甲状腺の働きを低下させる。橋本病の方はとくに影響を受けやすい
- ただし極端な制限は不要。目指すのは「ちょうどいい距離」
- うがい薬・造影剤・代謝系サプリにもヨウ素。検査前のビオチンにも注意
- セレン・鉄・亜鉛・たんぱく質も甲状腺を支える。ただしサプリでの大量摂取は避け、食事から
- キャベツ・ブロッコリー・大豆は、普通に食べて大丈夫
- ストレス・睡眠・季節の影響を受ける。冬は数値が動きやすい
- 周りには病名より「何がつらいか」を伝えると届きやすい
シリーズを終えて 🌸
全5回、おつきあいくださってありがとうございました。
のどにある小さな臓器から始まって、自己免疫のしくみ、見過ごされやすい不調、検査の読み方、そして暮らし方まで。ずいぶん長い道のりでした。
甲状腺の不調は、「なんとなくしんどい」に埋もれてしまいがちです。だからこそ、知っておくことに意味があると思っています。
この5回が、どなたかの「確かめてみようかな」につながったら——それ以上に嬉しいことはありません。
ホルモンバランスノート、骨活ノート、冷えとりノートとも、深いところでつながっているテーマでした。あわせて読んでいただけたら、体のつながりがもっと見えてくるはずです。
どうぞ、ご自分の体をいたわりながら。今日もおだやかに過ごせますように 🌿
整う、うずうずノート

コメント